訃報。そしてそれについての世論に一言。
今日の文章は長いですけど、良かったら読んでやってください。
本日、朝起きてYahooをチェックしていたら信じられないニュースがアップされておりました。
MotoGPなどで活躍していたロードレーサー、阿部典史選手死去。
阿部典史選手。
このブログをご覧の皆様にはなじみが薄いと思われますが、「ノリック」の愛称で親しまれ、2輪ロードレース世界選手権(WGP、及びMotoGP)やスーパーバイク世界選手権(SBK)で活躍していた世界でもトップクラスのレーサーでした。
私が彼を知ったのは’97年くらいでしたか。
深夜にふと点けたTVでWGPが放映されてて、彼の走る姿に思わず釘付けになったのを思い出します。
その頃私は4輪至上主義で、「バイクなんて何がいいんだよ。」と思っていたのですが、この深夜のTVから流れる2輪のF-1であるWGPを見て、「2輪では世界で勝てる日本人がいるんだ!!」と、それは驚いたものです。
それでも彼の大ファンとなったわけではなかったのですが、以来深夜のWGPはいつの間にか私にとってF-1以上の興味対象になりました。免許とって(中免ですけど)バイク乗るようにもなったし。
こうして私がWGPをTVで見ている間に彼はYAMAHAのサテライトチーム、ダンティンで2度優勝しました。資金的に弱い立場のチームでワークスと互角以上の戦いをする彼は間違いなく世界でも一流のライダーだったと思います。その反面、彼独特の極度の前荷重のコーナーリングでリヤを流してコントロールする走りは天才的ながらリスクも高く、常に危険が付きまとっていたのは否定できませんが、とにかく彼以上にバイクをコントロールする技術に長けた人間はそうはいないでしょう。
それなのに彼は死んでしまいました。
それもサーキットではなく、公道でバイクを運転中にUターン禁止区域でUターンをしていたトラックに衝突して。
それが信じられないのです。
なぜならレーサーであるなら2輪、4輪問わず運転に関しては人並み外れた感覚を持っているはずだからです。
スピードというものは普通の人間でも感じる事が出来ます。例えば時速300kmの世界は新幹線に乗ればどれほどのものか目で理解できる。時速400kmの世界もジェット機が離陸する瞬間に体験できますが、車の持っている馬力、パワーというものを常日頃身体に感じて運転している人が果たしてどれだけいるでしょうか?
自分の何十倍も、何百倍もの力をイメージして車を運転している人間が果たしてどれだけいるというのでしょうか?
そういった目で見えないもの、手や足や耳でも感じ得ない物をイメージし、なおかつコントロールできる者をレーサーと言うのではないかと。だからかつてのアイルトン・セナが死んだ時と同じく、ノリックが事故によって死んだというのが私には信じられないのです。
とは言え彼の名誉のため、というわけではありませんが、アイルトン・セナが死んだ時、モータースポーツの存在そのものを否定した人間が少なからずいたように、今回のノリックの事故によって「やはりバイクは危険な乗り物である。」と考える人たちが居るかもしれません。しかし少なくとも私はそうは思いません。むしろそう考えながら4輪に乗っている人たちのほうが明らかに危険であると断言します。
なぜならバイクもクルマも事故を起こす過程は同じで、それが違うのは絶対スピードの差でしかない、という事をその人たちは知らないと考えるからです。
前後方向にしかタイヤの付いていない2輪に対して4輪は左右にもタイヤがあるから安定してて事故は少ない。などというのは全くのナンセンス、ということです。
クルマでさえ慣性の法則には逆らえない。「重心移動」もあればコーナーを曲がるときの「バンク角」もあり、リヤタイヤが一瞬、限界を超えその後突然グリップを取り戻す非常に危険な「ハイサイド」も2輪だけでなく、4輪にももちろんある。
更に4輪至上論者が知っていなくてはいけないのが全ての移動する物体には「運動エネルギー」が働いているということです。
運動エネルギーとはE=1/2MV2。
つまり重量に秒速の二乗をかけた係数です。
これに従って例えば同じ時速50kmのバイクとクルマが事故を起こしたとします。つまり秒速約14mのスピードでコンクリートウォールに衝突した場合、
バイクの場合は約150kgとしてE=150X(14)2=29400、バイクとコンクリートウォールに対して合計、毎秒29.4tのインパクトが衝突の瞬間に発生します。
対してクルマの重量を1200kgとするとE=1200X(14)2=235200、毎秒235.2tになります。
どうお考えになりますか?
バイクでコレだけの衝突をすれば間違いなくライダーの命はないでしょう。
それではクルマならシートベルトがあるからこれだけの衝撃でも大丈夫、と、そう思われる方がいらっしゃるなら今すぐ免許証を警察にお返しになられたほうが身の為です。
しかも、ともするとバイクのライダーはこれだけの衝撃を受ける前ににバイクから身体を放り投げ、運動エネルギーを抑制する事が可能ですが、クルマのドライバーはインパクトの前にシートベルトを外して車外に脱出するなどまず不可能ではないでしょうか。
話が非常に逸れてしまいましたが、阿部典史選手の死亡事故に対してバイクそのものを否定しかねないような話をするような人間も中にはいると思いましたので私の意見を書き留めずにはおれませんでした。
とにかく2輪、4輪関わらず、バイクやクルマを運転した事のある全ての方たちに、「どちらが危険で、どちらが安全」などという議論は全く無意味であるということと、ノリックほどバイクを知り尽くした人間であっても事故という災害から逃れる事が出来ないのなら運転やクルマの知識に関して全くの素人である我々には絶対に安全という保証などどこにもない。という事をお伝えしたかっただけです。
日本を代表するロードレーサーであった阿部典史選手に、心から哀悼の意を表します。
※訂正:
運動エネルギーの数式に誤りがありましたので訂正させていただきました。
いずれにしても大きな衝撃を受ける事に変わりありませんが、重大な誤りがあったことをお詫び申し上げます。
私の頭によぎったのは
彼が乗っていたのが大型スクーターじゃなかったら避けられたのでは…
と、言う事です
でも起きてしまった事に“たら、れば”は無いんですよね
ご冥福をお祈りいたします
人間の命ってホンマに一瞬、儚いもの。
毎日を大切に生きていきたいって誰かが亡くなるたびに思います。
日本のレース界にとって、非常に大きな才能を失ってしまったと本当に思います。
彼の死によって一人でも多くの人がクルマやバイクを運転する事に対する自己責任の大きさというものに気付くよう、願うだけです。
運転免許を所持しているということはただ単に車を運転して良いということだけではなく、社会的に常識をわきまえた成熟した人間であると認められている証拠、という事を皆様どうかお忘れなきよう。